マドラスにコルカッタイ専門店がオープン
ガネーシャ神の好物、米粉を練った生地を蒸した菓子コルカッタイ(モーダカ)について前回書いた。ガネーシャ神の誕生を祝うGanesh Chaturthiの時期以外は、料理店や菓子店であまり見かけることがなく、コルカッタイ好きとしてはそれが少々不満というか、さみしく感じていたのだけど、先月、Ganesh Chaturthiに合わせるようになんとコルカッタイ専門店がマドラスにオープンした。
その名もPidi。
ギュっと握ればタミルのおにぎり
Pidi(ピディ)とは、タミル語で「握る」「持つ」「つまむ」といった意味。
実はコルカッタイにはさまざまな種類があって、ピディコルカッタイは片手でギュッと「握った」指の跡のままのこんな形。餡はなしで生地自体に味をつける。
つまり、これがタミルの「おにぎり」といってもいいかもしれない。ジャガリー(サトウキビなどの含蜜糖)を混ぜれば甘いおにぎりに。塩やスパイス、豆などを加える甘くないスパイシーバージョンもある。
でもこのピディ、もっと幅広い意味でも使われているようで、同じ生地を葉っぱで包んだり巻いたりしたものもそう呼ばれることもあるようだ。もしかすると「手でつまめるもの」、「おつまみ」といった感覚もあるかもしれない。
写真手前のものはマンゴーの葉の上に細長い生地を置いて巻きこんだピディ、その左奥は菩提樹の葉で包んだもの。その奥のまん丸の形のものもピディと呼ばれるようだ。こちらはシヴァ神と関わりの深いベルノキの葉で巻かれている。
ただ、呼び名は地域やコミニュティによって多少異なる。右側のバナナの葉で包んだものは、お隣のケーララ州でEla adaと呼ばれるもので、ピディやコルカッタイの仲間といっていい。中に甘い餡やスパイシーな餡が入っている。
お祭りの日には籠に詰めて
ガネ様の聖誕祭Ganesh Chaturthiでは、前回紹介した形のものだけでなく、米粉を蒸したスナックの仲間達をいろいろ取り混ぜて一緒にお供えする家庭も多い。
上の写真は、コルカッタイ専門店PidiのGanesh Chaturthi用詰め合わせの中身で、パルミラ椰子の葉を編んだこんな素敵な籠に詰められた状態で届いた。
さて、地元でもコルカッタイ=団子(日本的にいうと「餅」といっていいかもしれないけれど)と一般的に解釈されているようだけど、詰め合わせの中に入っていたココアナッツの葉で包まれた”Coconut leaf Navara Pidi”を目にした時に、ある話を思い出した(ちなみにNavaraというのはGIタグ付きのケーララ州の赤米。Pidi ではインドの在来種米を積極的に使用している)。
コルカッタイの原型は鋤の刃?
数年前、タミル言語学者A.Thasarathan先生がこんな話をしてくださった。
コルカッタイ(Kozhukattai。タミル語のzhはラ行の発音)のコル(Kozhu=கொழு)には農具の「鋤の刃」という意味があり、実際、先生の故郷であるタミル・ナードゥ州南部の都市ティルネルヴェーリ近郊の村では、コルカッタイといえば、ガネーシャ神の左手に乗せられた先の尖ったお団子型ではなく、Coconut leaf Navara Pidiのような細長い鋤の刃の形なんだという。調べてみると、鋤の柄に鋤の刃を留めることを意味する動詞は「コルカットゥ」というらしい。
そういえば、ケーララ州ではコルカッタイでなく、Kozhukatta(コルカッタ)と呼ぶ。ケーララの言語であるマラヤーラム語にも「鋤の刃」の意味があるのかどうかはわからない。また、昔の鋤の刃が実際どんな形だったのかよくわからない。
でも、手先の器用さが必要とされるガネーシャ神の供物としてのコルカッタイよりも先に、伸ばした生地を葉っぱで包んだり、生地を手でギュっと握っただけの、素朴な形からはじまったと考えるのが自然な気もする。
それにしてもこの愛らしいピディ達。なんといっても食べた後に葉っぱだけが残るのが気持ちがいい。
「おにぎり」と「雌の象」をよろしく
さて、最後にタミル語の「ピディ」という言葉にもう一つ別の意味があることを紹介しておこう。「雌の象」だ(雄の象は「カリル」)。冒頭で紹介したコルカッタイ専門店Pidiのロゴをもう一度見てほしい。かわいらしい象の鼻の先に食べ物のピディ達が乗っている。象の頭を持つガネーシャ神のお気に入りにこれほどふさわしい名前があるだろうか。
来年のGanesh Chaturthiには、いつもの形だけでなく、たとえばマンゴーの葉と一緒に巻き込んだピディや、他の形もいろいろ作ってみたい。もちろん白い米だけでなく色のついた在来種米を使って。ガネ様にもきっと喜んでいただけるに違いない。