暮しの手帖 4世紀94号 「南インドの女性と、祈りのコーラム」

2018年5月25日に発売された、『暮しの手帖 4世紀94号』(リンクをクリックするとAmazonのページにジャンプします)の特集記事 「南インドの女性と、祈りのコーラム」の取材を担当しました。文章はイラストレーターの塩川いづみさんで、写真は在本彌生さん。


※以下は、特集記事の内容とは直接関係なく、コーラムに関する個人的な経験や思いをメインに記しています。

コーラムとはタミル語で「美(beauty)」を意味し、タミル・ナードゥ州の各地で、毎朝家の前に米粉(現在は米粉と石灰などを混ぜたものが主流)で描かれる吉祥模様です。単なるデコレーションではなく、ラクシュミー女神を家の中に招き入れるという意味もあるらしく、毎日のお祈りの一部といっていいかもしれません。お寺にお参りするときと同様に裸足になり、地面を掃いて水を撒いて清めてから描き始めます。

祭りの日の朝、通りに広がるカラフルで大ぶりなコーラム。

マドラスに住んで10年以上になりますが、以前はただただ美しいと感じて、お祭りや年末年始を中心に写真に収めてきました。普段は白1色のシンプルなコーラムが多いのですが、神聖な月とされるタミル暦のマールガリ月(12月中旬〜1月中旬)から収穫祭ポンガル(1月中旬)の期間中は、色とりどりの大きなコーラムが家々の玄関先に並び、通りの両脇に巨大な花が咲いたようになります。

2018年1月のコーラム大会にて

粉を人差し指と中指の間から落としながら、器具などを使わずに描くので、描き手(主にはその家のお母さん)の個性がダイレクトに現れて、一つとして同じものがないのも魅力です

吉祥模様を描く伝統はインド各地にありますが、コーラムはもともとは米粉のみの白1色で、点と線で構成され、基本的には左右対称の模様です。絵を描くセンスだけでなく、数学的な頭の使い方を要求される部分もあります。
最近では、北インドでお祭りの際になどに描かれるフリーハンドの色鮮やかなランゴーリがタミルの地でも流行し、その手法が浸透しつつあります。

毎年マールガリ月の後半(1月初旬)に開催されるマドラスのコーラム大会(2021年は新型コロナのため中止)。

取材は2018年1月初旬、マールガリ月の後半から行われました。「コーラム外人部隊」と勝手に名前をつけて、まずはタミル・ナードゥ州最大のコーラム大会からスタート。その後、ガーヤトリー先生やグレース先生などコーラム研究家の方々から歴史や意味、役割について学ぶと共に、日々の営みの中でコーラムが実際にどのような存在であるかを目の当たりにしました。さらに、収穫祭ポンガルを祝うタミルの村々を周りながら理解を深め、いづみさんのオリジナルコーラムの制作が旅のフィナーレに。

建物の屋上からもはっきり見える巨大なパディコーラム(完成形は記事一番上の写真)を描くガーヤトリー先生。
5本の指全ての隙間から粉を同時に落としながら描くという魔法のような技。まるでコーラムが生きているかのような迫力があります。

10年間、毎日のように見ていたコーラムのことを、実はほとんど何も知らなかったことに気づかされたこの取材は、大げさでなく、まさに私の人生を変えるものになりました。その後もリサーチを続け、以前は見るだけで十分だと思っていたのに、自分でコーラムを描くまでになったのです。また自分が描くようになって初めて、コーラム友達である近所のお母さんたちとより深い部分でつながることができるようになった気がしています。

繊細で神秘的、遊び心に満ちたグレース先生のコーラムの数々。

母から娘に幾世代にもわたって脈々と伝えられてきた、タミル文化の華コーラムを知らずしてこの土地は語れない。そんな愛しい存在です。

塩川いづみさんのパディコーラム。旅で出逢った子山羊の誕生をモチーフに。

『Transit』の南インド特集でも大活躍してくれた、10年来の友人であるチンマヤに再び全面協力してもらいました。深く感謝します。

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