ボロボロになったカーマスートラとナス属の植物
“nightshade”って、確かカーマスートラに出てくるんじゃなかったっけ。
タミル語で「マナタッカーリ」と呼ばれる「イヌホオズキ」の英語名が “Black Nightshade”と知った時に、ふと昔の記憶が蘇った。そもそも、前回の記事の主役「トマト」を含むナス科の植物がnightshadeの仲間らしいのだ。
というわけで、読みすぎて見事なまでにボロボロになったWendy Doniger版『カーマスートラ』で確認してみる(保存用にもう1冊持っている)。
nightshadeが登場するのは第7部2章 “Methods of Increasing the Size of the Male Organ”。
大正12年に刊行された印度學會版『印度古典 カーマスートラ(性愛の學) 』では「精力回復、男根増大法等」と訳されている章だ。
nightshadeは、1ヶ月(!)も増大状態が続くというインド版バイアグラレシピに用いられていた。
You can make an enlargement that lasts for a month by rubbing your penis with, one at a time, the juices of ground cherry, sweet potato, water leeches, fruits of the nightshade, fresh buffalo butter, ‘elephant’s ear’ teak tree leaves, and heliotrope.
from “VATSYAYANA KAMASUTRA (Oxford World’s Classics)” translated by Wendy Doniger and Sudhir Kakar
“fruits of the nightshade”とあるけれど、前述のように “nightshade”といえばナス科の植物全体が範囲に入ってくる。具体的にはどの植物を指しているのだろうか。
↓が、上記のレシピのサンスクリット語ローマ字表記になる(私自身は、サンスクリット語については全くの門外漢なのだけど)。
7.2.28/.azvagandhA^zabarakanda^jala^zUka^bRhatIphala^mAhiSanavanIta^hastikarNa^vajravallI^rasair ekaikena parimardanaM mAsikaM vardhanam/
VAtsyAyana, KAmasUtram digitalized by Mizue Sugita September 1, 1998 based on the edition of KAmasUtram with commentary of yazodhara, dvitIyaM saMskaraNam, nirNayasAgarayantrAlaya, 1900
その名はブリハティー
上のレシピに使われている植物はサンスクリット語でBrhati(ブリハティー)。学名はSolanum indicum Linnで英語名はIndian night shade、和名ではテンジクナスビというらしい。確かに花は茄子に似ている。
ちなみに、同じレシピに登場する “ground cherry”とは前回もちらっと触れた、精力増強効果のあるアーユルヴェーダの薬草アシュワガンダ(タミル語ではアラッカラー)だ。こちらはウィザニア属になるが(テンジクナスビはナス科ナス属)、nightshade一般と同じくナス科の植物になる。セキトメホオズキという和名もあるようだ。
テンジクナスビもアシュワガンダも、可憐な見た目と薬草パワーのギャップが面白い。
1ヶ月増大持続レシピの後には、6ヶ月増大持続のレシピも紹介されているのだけど、そこにもブリハティーは使われている。よほどパワフルな薬草ということだろうか。
でもなぜそんなに長期間増大が必要とされたんだろうか、それって実生活では便利というより困るんじゃないかな。
テンジクナスビに似た植物は日本にないかと思って調べてみると、沖縄の宮古島と伊良部島にイラブナスビというよく似た植物があると書かれていた。
日本のマナタッカーリに対面
さて、今年はマドラスでなく日本でnightshadeの仲間の「実りの秋」を満喫している。
こちらはヒヨドリジョウゴ(Solanum lyratum Thunb, Lyreleaf Nightshade)。トップのイメージ写真も同じく。蔓状の植物で実の色は紅。実は熟すとかなり柔らかいので扱いには注意(気づかないうちにつぶれていて悲惨なことに泣)。
トマトのミニチュア版といった風情でかわいらしい。
そして、マナタッカーリ=イヌホオズキ(Solanum nigrum)の「仲間たち」。
「仲間」と言葉を濁したのは、実はイヌホオズキの見分けに自信がないからだ。
白い花と紫がかった花は、イヌホオズキではなくて、外来種のアメリカイヌホオズキ(Solanum ptychanthum)ではないかと思っている。
こちらは空き地で撮影した花。マドラスの八百屋に売ってるマナタッカーリにはよく似てるんだけどね。
これが実。熟すと黒くなるはず(かれこれ2週間くらい観察しているけどまだ緑のまま)。
こちらは黒い実が混ざっているイヌホオズキの仲間。
オオイヌホオズキあたりなのだろうか。
上の白&紫がかった花のものより葉っぱも一回り大きい&形も微妙に違うので、別の種類の植物に見える。
それとも単に生育度が違うだけで同じ植物なのだろうか。
イヌホオズキの仲間には、アメリカイヌホオズキ、オオイヌホオズキ、テリミノイヌホオズキなどがあるようだ。
細かい違いがあるようで、何度も見方を変えて特定しようと何日も頑張ったけど、やはり自信がない。
どなたか教えて下さーい!
ごく身近にマナタッカーリの仲間が自生している事実は嬉しい。
が、日本のイヌホオズキを調理する勇気は……今のところない。
nightshadeはアーユルヴェーダをはじめ各所で薬草として活躍しているようだけど、有毒成分ソラニンを含んでいるし、同じ植物だから大丈夫というわけではないかもしれない(違う植物の可能性だってあるし)。
そうそう、ガーデン・ハックルベリーと呼ばれるSolanum scabrumは食べられるんだって。
なんか、園芸ブログみたいになっちゃったな。