お参りのあとのお楽しみは…
葉っぱで巻いたり包んだりした食べ物が好きだ。素朴で風情のある見た目と実用美。手の平でころんとする収まり具合、開ける喜びとわくわく感もたまらない。
そして、包まれた料理の形もまた味わいの一つだ、と思う。マドラスで一番大きいヴィシュヌ寺院、トリプリケーンにあるParthasarathy (パーラッタサーラティ)寺院は、1000年以上前からこの地にあるという歴史の古いお寺だ。このお寺の隠れた名物は、ずばりプラサーダム。
プラサーダムとはお寺で神に捧げるために寺院内で調理される料理のお下がり。プラサーダムを買うことができるお寺は多いけれど、ここはとにかく種類が多い。しかもどれもとびきりの味わいだ。
石造りの寺院の中は薄暗く、張りつめた空気が漂う。緊張しながらお参りをひととおり終えると、私はいつも内心そわそわしながら、でも真面目な顔で、プラサーダムが並ぶ一角を目指し、石の回廊を裸足でピタピタと早歩きで目指す。
ショーケースにびっしり並んだプラサーダムは茶色っぽいものが多く、砂糖やら油やらでツヤツヤとして、食いしん坊の私には金塊のように輝いて見える。
天に伸びる金色のゴープラム酢飯
必ず注文するのはタマリンドライス(タミル語でプリヨーダライ=Puliyodharai)。
タマリンドとスパイス、豆やピーナッツなどを合わせたペーストをご飯に混ぜ込んだ甘酸っぱい料理で、私の中では、これがこの国の食べ物で一番酢飯に近い。Puliはタマリンドという意味だけど、酸味全般を指す言葉でもあるので、タミル語でもすばり「酢飯」なのだ(Puliyodharaiの“odharai”は「炊いた米」を表す)。味が濃くてスパイシーな南インドの親戚といってもいいかもしれない。日本人は好きな味だと思う。実際、稲荷寿司にしてもよく合う。
タマリンドライスは、作ってから数時間経って味がなじんでくる頃が一番おいしい。家庭でもよく作るけれど、お寺で作ったMadapalli Puliyodharaiはやっぱり格別だ(Madapalliはお寺の厨房という意味)。
マンダーライと呼ばれる羊蹄木の葉(インドの伝統医学で使われる薬草でもある)で三角錐の形に包まれ、白の糸で無造作に、でもキリッと縛ってある。赤い糸のようにも見える、色づいた葉脈とのコントラストが美しい。
糸をするするとほどいて、葉を開くと、金色に輝くタマリンドライスのご登場だ。天に向かってすうっと先細りに伸びる三角錐は、思わず手を合わせたくなる神々しさ。ところどころに見えるピーナッツの粒が埋め込まれた宝玉のようにも見える。
そのお姿を堪能しながらも、甘酸っぱい味わいの記憶が蘇ってきて、ゴクリと息を、いや唾を呑む。
この三角錐はゴープラムという南インドのヒンドゥー寺院の塔門をかたどっているらしい。これ以上、南インドのお寺のプラサーダムにふさわしい形があるだろうか。
と、今食べたように書いてしまったが、実は、パーラッタサーラティ寺院のこの葉包みのタマリンドライスはもうない。数年前には味気ない現代的な容器に変わってしまっていて、少しがっかりした。
年々少なくなっているように感じる葉包みのプラサーダム、このゴープラムの形と共に、消えてほしくない美しい伝統の一つだ。パーラッタサーラティ寺院でも本当は復活させてほしいのだけど。
ヴィシュヌさまにお願いしようかな。