華やかな祭りの小さな楽しみ
今年もまた逢えたね。
と、白い小花に小声で話しかけたくなる日がある。
毎年1月中旬、インド暦※上の冬至、太陽が黄道十二宮の磨羯宮(やぎ座に相当)に移動するタイミング(マカラ・サンクラーンティ/Makar Sankranti)で、春の到来を祝して太陽神スーリヤに祈り、新穀に感謝するタミル暦タイ月初日(2022年は1月14日)のタイ・ポンガル(Thai Pongal)は、人々が心待ちにするタミルで一番大きな祭りだ。
その日は、家の前にひときわ華やかなコーラム(吉祥紋様)が描かれ、ミルクを加えて炊く甘い固粥サッカライポンガル(スイートポンガル)を神に捧げる。どちらも吉祥の象徴そのものである。
コーラムもサッカライポンガルももちろん大好きだけど、私がひそかに楽しみにしているのは、家の軒下や玄関先に飾られる白い小花のブーケだ。ポンガルコーラムの極彩色の華やかさとは対照的な慎ましく清楚な姿は、無垢な美しさに包まれている。
細い茎に金平糖のような粒状の花が連なる姿は、妖精の首飾りのようにも見える。
ボーギの日、山の麓のマンゴー農園にて
2017年の1月初旬、タミル暦マールガリ月(12月中旬〜1月中旬)後半に、西ガーツ山脈の麓、タミル・ナードゥ州南西部に位置する町ラージャパーラヤム(Rajapalayam)を訪れた。
この町はマドラスの友人の故郷で、彼の一族が所有するマンゴー農園を案内してもらった。1月といっても十分に暑く、水代わりにココヤシの若い実の液状胚乳、テンダーココナッツウォーターをいただくことにした。その時、農園の脇に積み上げられた椰子の実の上に、白い小花がどっさり置かれていることに気づいた。
こんなにたくさんの花をどうするんだろう。
花の名前を聞くと、「確かポンガル・フラワーと呼ばれているけれど、正式な名前は知らない」と友人は教えてくれた。その日はちょうどマールガリ月最終日でタイポンガルの前日。早朝から古いものを焼き、新しい服やしつらえで身の回りを整えて季節の節目を迎える準備をするボーギと呼ばれる日だった。
ラージャパーラヤムの隣町、女神アーンダールの伝説が残るシュリヴィッリプットゥール(Srivilliputhur)のアーンダール寺院に行くと、参道で白い花とマンゴーの葉を合わせたものが売られていた。
そしてタイ・ポンガルの朝。
友人の祖父の家の玄関には白い花とマンゴーの葉を束にしたものがくくりつけられていた。
ポンガルを祝うコーラムを見ようと通りに出てみると、何かの合図のように同じ束がどの家にも飾られていた。バイクや自転車にまで!まるで日本のお正月のしめ飾りみたいだ。
朝ご飯(サッカライポンガル)をいただいてから、再びアーンダール寺院にお参りすると、分厚い木の扉には、太めの花束が逆さに吊るされ、天から降り注ぐ太陽の光にも見えた。真っ白い服を着た老人が一心に祈る姿は、タイ・ポンガルの朝の光景として目に焼き付いている。
ボーギの日に古いものを燃やしたら、無病息災を祈ってこの花束を家や畑の大切な場所(北東など)に飾る習わしらしい。(ただし、マドラスでは見たことがなかった。)
お土地柄が楽めるバリエーションいろいろ
タイ・ポンガルの翌日は、家畜に感謝するマットゥ・ポンガル(Mattu Pongal)だ。
私たちはマドゥライを通ってチェッティナードゥへ向かった。途中でドライバーが道に迷ってしまい、小さな村で車を停めた。
車のドアを開けると、何やら賑やかな音楽が辺りに鳴り響いている。目の前の家の庭先には竈が組まれ、みんなが集まってポンガルを炊いているようだ。興味深げにのぞいていたら、飛び入り参加させてもらえた。お嫁さんは、ポンガルの壺をかき混ぜ続け、お姑さんが法螺貝を吹いて、子供たちも笛を吹いたり賑やかだ。お舅さんとご主人は、誇らしげにこの日の主役である雄牛を見せてくれた。
見上げると家の軒下にあの白い花束が屋根から飛び出た尻尾のように飾られ、ポンガルプージャー(祈祷)を高いところから静かに見守っていた。
今回、写真を整理していて新たな発見があった。ポンガルが炊き上がった後、お嫁さんは、お決まりの葉付きターメリックだけでなく白い花とマンゴーの葉も一緒にポンガル壺に巻きつけていた。他では見たことがないので、この地域の農家特有の風習なのかもしれない。
さて、チェッティナードゥでも、お屋敷の玄関や店先に同様のお飾りがあった。ラージャパーラヤムでは白い花とマンゴーの葉だけだったけれど、ここではミミセンナの黄色い花が混ざる。
昨年、友人はマドラスでもこのお飾りを見つけ、珍しいからと一つ買ってきてくれた。シカクヤブガラシやらニームの葉やらが加わってさらににぎやかだった。
白い花とマンゴーの葉っぱだけのシンプルバージョンが一番好きだけど、あちこちでお土地柄を楽しむのも悪くはない。
カーップカットゥ、魔除けの薬草束
このお飾り的な花束は、タミル語でカーップカットゥ(காப்புக் கட்டு)といい、「薬草を束にしたお守りや魔除け」を意味する。
白い花はAerva lanata、アマランサスやケイトウと同じヒユ科の植物だ。この花に、マンゴーの葉、アーヴァーライ(Senna auriculata/ミミセンナ)、ニームの葉、ピランダイ (Cissus quadrangularis/シカクヤブガラシ)などを合わせる。
Aerva lanataのタミル語の呼び名は、ポンガプー/ポンガルプー(பொங்கப்பூ プーはタミル語で花の意)だけでなく、シルカンピーライ(சிறுகண்பீளை)、シルピーライ(சிறுபீளை)、テーンガーイプーキーライ(தேங்காய்ப்பூக் கீரை)などたくさんあり、それだけ親しまれてきた存在だとわかる。
テーンガーイとはココナッツのことなのでどんな関係があるのだろう。調べてみると、ココナッツの果肉を削ると雪のようにふわふわになる、あの感じに似ていることからついた名前らしい。確かにそっくり!
サンガム文学にはプーライ(பூளை)として登場するので、一応プーライが正式名なのだろうか。
ちょうどポンガルの時期に咲く花だということと、可憐な見た目に似つかわしくない強力なパワーが宿る薬草であることから、ポンガル用のカーップカットゥに使われるようだ(下のデータ参照)。お隣のスリランカではポルポラと呼ばれ、薬草粥(コラキャンダ)にしたり、お茶にして飲んだりするなど、ごく身近な薬草であるらしい。
原産地であるアフリカでも多用され、コートジボワールでも邪気を払うのに使われるという。
テーンガーイプーキーライも捨て難いけど、ポンガルの頃に咲く花なので、やっぱりポンガプー、ポンガルの花と呼びたい。ポンガルのお飾りに使われるということだけでなく、縁起担ぎにポンガルをわざと炊きこぼし、もこもこぶわーっと泡が立ち上る姿にもどこか似ているからだ。花まで食べられるのかどうかは知らないけれど、一度サッカライポンガルにトッピングしてダブルでポンガらせてみたいな。
邪気を払って福来たる。ポンガロー、ポンガル!
※地球の歳差運動を考慮しないインドの暦は、グレゴリオ暦とずれが生じていく。2022年現在、23日のずれがある。
ポンガルの花 (ヒユ科)
学名 : Aerva lanata /Amaranthaceae Family
原産 : アフリカ、アジア
英語 : Mountain knotgrass
タミル語 : பூளை(poolai) ,சிறுகண்பீளை(sirukan peelai), சிறுபீளை(siru peelai), பொங்கப்பூ(ponga poo), தேங்காய்ப்பூக் கீரை(teengai poo keerai)
シンハラ語 : පොල්පලා (polpola)
サンスクリット語: भद्र (bhadra)
効能:利尿、駆虫、抗糖尿病、咳止め、止血、抗炎症、解毒作用があり、腎臓・膀胱結石や、マラリア、コレラなどの感染症、サソリやヘビに噛まれた時、火傷などの治療に用いられる